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津地方裁判所 昭和58年(行ウ)6号 判決 1985年7月18日

原告 山崎輝久

被告 三重県知事

代理人 立花益實 尾崎肇 戸脇隆 倉田幸夫 ほか一一名

主文

本件訴えをいずれも却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が訴外天祐砂利有限会社に対してなした昭和五三年九月三〇日付三重県指令四林第一一〇六号林地開発行為許可及び昭和五五年五月十五日付三重県指令砂第一号の八砂防指定地内作業等許可の各許可処分が、いずれも無効であることを確認する。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  本案前の答弁

主文と同旨

三  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  原告は、三重県員弁郡東員町大字穴太字地獄谷二五二一番の土地(以下、原告所有地という)を先祖代々所有しているが、被告が訴外天祐砂利有限会社(以下、訴外会社という)に与えた昭和五三年九月三〇日付三重県指令四林第一一〇六号林地開発行為許可(以下、本件開発許可処分という)及び昭和五五年五月十五日付三重県指令砂第一号の八砂防指定地内作業等許可(以下、本件作業等許可処分という)の各許可処分(以下、両者を合わせて本件各許可処分という)により許可区域内外の開発が進み、原告所有地へ進入する官有里道がなくなり、また土砂流出が激しくなつた結果、原告所有地は山林として有効に利用ができなくなつた。

2  本件開発許可処分には、次の瑕疵がある。

(1) 許可処分区域が許可処分された地番と異なる。

(2) 許可区域内の官有里道の加工願いや不動産登記等の手続を行なわせていない。

(3) 開発工事完了後の官有里道や各私有地を区画した図面がない。

(4) 開発工事完了後、官有里道や各私有地の境界の判別ができなくなり、その結果各私有地の使用が不可能となった。

(5) 許可申請書に添付された公図は偽造のものである。

(6) 許可申請書に添付された同意承諾書は不適当なものである。

(7) 被告は現地調査をせずに許可処分した。

(8) 被告は地域森林計画図と森林簿附属図面との判別ができないまま許可処分した。

(9) 保安林や官有里道に隣接する保全区域が設けられていない。

(10) 許可処分により訴外会社に官有里道の土砂を無償で与えた。

3  本件作業等許可処分には、次の瑕疵がある。

(1) 許可処分のなされた多度町大字力尾字沢地九番地は、法務局(桑名出張所)の土地台帳に登載がない土地である。

(2) 許可区域は保安林であるから、森林法三四条五項の許可が必要であるにもかかわらず、右許可がない段階において、本件作業等許可処分だけで作業許可を与えた。ちなみに、森林法三四条五項の許可がされたのは昭和五八年三月二二日であり、本件作業等許可処分の約三年後である。

(3) 作業完了後における各私有地を区画した図面がないため、作業完了後には各私有地の境界が判別できない。

(4) 東員町大字穴太字地獄谷の土地と接する部分には、保全区域が設けられていない。

(5) 許可申請書に地籍図や砂防法七条による同意承諾書が添付されていない。

(6) 許可申請書に許可区域内及び隣接地の土地登記簿謄本の添付がない。

(7) 本件各許可処分について四日市林業事務所と桑名土木事務所は合議していない。

(8) 被告は許可処分に当り現地調査を正確にしていない。

4  よつて、原告は被告に対し、本件各許可処分の無効確認を求める次第である。

二  請求の原因に対する認否

1  請求の原因1の事実のうち、原告が原告所有地を所有すること、被告が訴外会社に対し本件各許可処分をなしたこと、原告が官有里道と主張する部分の土砂が採取されたことは認め、その余は争う。

2  請求の原因2の事実のうち、(4)(5)は知らない。(7)は否認し、その余は争う。

3  請求の原因3の事実のうち、(3)は知らない。(2)のうちの許可区域が一部を除き保安林であることは認め、その余はすべて争う。

三  被告の主張

1  本案前の主張

(一) 訴えの利益について

行政処分の無効確認訴訟の原告たり得る者は、当該行政処分の無効確認によつて回復すべき自己の「法律上の利益」を有する者でなければならず(行政事件訴訟法三六条参照)この「法律上の利益」の有無は、当該行政処分の根拠法規と当該行政処分の無効確認を求める原告との関係から、当該行政法規がその者にどのような権利ないし利益を法的に保護しようとするものであるかを具体的、個別的に確定することによつてはじめて明らかになるものであり、一般的、抽象的利益では足りないのである。原告は、本件各許可処分の対象地域の近隣土地の所有者ではあるけれども、以下に述べるとおり、本件各許可処分の無効確認を求めるにつき法律上の利益を有する者ということはできない。

(1) 森林法は、森林の保続培養と森林生産力の増進を図り、もつて国土の保全と国民経済の発展とに資することを主要目的とし(同法一条)、全国森林計画(同法四条)及び地域森林計画(同法五条)をたてなければならない旨、そして全国森林計画は良好な自然環境の保全及び形成その他森林の有する公益的機能の維持増進に適切な考慮が払れたものでなければならない旨(同法四条三項)、森林所有者らは地域森林計画に従つて施業し、森林土地を使用収益しなければならない旨を定めている。

右の目的に副つて定められている同法所定の開発行為の許可制度は(同法一〇条の二)、保安林以外の森林であつても、それが国民生活の安定と地域社会の発展に少なからぬ役割を有していることに鑑み、これらの森林において開発行為を行うに当たつては、これらの森林の有する機能を阻害しないよう適正に行うことが必要であり、またそれが開発行為を行う者の当然の責務であるという観点から規制を行うものであり、保安林制度との連けいを図りつつ、森林土地の利用を確保しようとするものである。そして、この開発行為の許可は、災害の防止、水の確保、環境の保全等森林の現に有している公益的機能の確保を十分考慮したうえでの判断に基づきなされるものである。したがつて、この開発行為の許可処分は具体的個人の権利、利益の保護を趣旨とするものではないから、本件開発許可処分の名宛人以外の第三者である原告の私法上の権利関係に直接具体的な法律上の効果を及ぼすものではないことは明らかである。

(2) 次に、砂防法は、土砂の生産を抑制し、流送土砂を扞止調節することによつて河川流域の災害を防止することを目的としている。すなわち、山地の斜面は降水等による表面侵食、ガリー侵食によつて削りとられ、渓床や渓岸は流水により縦横侵食を起こすことによつて土砂の生産が絶えず行われ、生産された土砂は不断に下流河川へと流送され、また台風による異常降雨は莫大な量の土砂を流出させ、このため河状は常に変化し河床上昇等の現象をきたし、水害の主要な原因を形成しているが、これを防止しようとするのが治水砂防である。砂防法は、この目的を達成するため、砂防設備を要する土地又は治水上砂防のため一定の行為を禁止若しくは制限すべき土地を主務大臣が指定することとし(同法二条。以下、砂防指定地という)、砂防指定地においては、一般に地方行政庁(都道府県知事)が国の機関として治水上砂防のため一定の行為を禁止若しくは制限することができるものと規定している(同法四条一項)。右規定に従い、被告三重県知事は、砂防指定地管理規則を定め、これにより砂防指定地内での一定の行為を禁止又は制限し、あるいは許可にかからしめているが、一定行為の禁止又は制限の範囲は、治水上砂防のためという公益上必要な限度にとどめるべきであり、制限行為について許可の申請がなされたときは、治水上砂防の見地より支障がない場合には、当然許可すべきものであつて、他の理由によつて許可を拒否することはできないものであるから、砂防指定地内での制限行為の許可にあたつては、作業行為施行地の近隣土地の所有者の個別的利益の保護までを考慮してなすべきものではない。したがつて、本件作業等許可処分は、その名宛人以外の第三者である原告の私法上の権利関係に直接具体的な法律上の効果を及ぼすものではないというべきである。なお、原告が主張するところの不利益ないし損害は、もつぱら訴外会社の作業行為から生じた事実上の損害であり、砂防法上保護されている権利ないし利益の損害ということはできない性質のものである。

(3) 以上のとおり、原告の本件訴えは、本件各許可処分の無効確認を求めるにつきいずれも法律上の利益を有しない者によつて提起されたものであるから、不適法として却下されるべきである。

(二) 行政事件訴訟法三六条の要件について

行政事件訴訟法三六条は、無効確認訴訟について、<1>当該処分に続く処分により損害を受けるおそれのある者、又は<2>(イ)その他当該処分の無効確認を求めるにつき法律上の利益を有する者で、(ロ)当該処分の存否またはその効力の有無を前提とする現在の法律関係に関する訴えによつて目的を達することができないもの、という要件を具備する場合に限つてその適法性を認めているところ、本件訴えは右<1>及び<2>(イ)の要件を具備しないうえ、右の<2>(ロ)の要件も具備していない。すなわち、本件各許可処分が違法無効なものであれば、無効な行政処分にはいわゆる公定力が認められないので、特にその無効確認を求めなくとも、右各許可処分が無効であることを前提として、原告は、訴外会社に対して、原告所有地の所有権等に基づいて妨害排除あるいは妨害予防請求等現在の法律関係に関する訴えをすることによつてその目的を達することができるのであるから、本件訴えは右<2>(ロ)の要件を具備せず、結局、この点からみても不適法として却下されるべきである。

2  本案についての主張

(一) 本件開発許可処分について

訴外会社から、本件開発許可処分にかかる土砂採取を目的とする林地開発行為許可申請書が、昭和五三年六月二九日三重県北勢県民局四日市林業事務所(以下、四日市林業事務所という)に提出され、右許可申請を受けた四日市林業事務所長(三重県事務決裁及び委任規則により許可処分権限を被告知事から付与されている)は、同年九月三〇日三重県指令四林第一一〇六号をもつて本件開発許可処分をしたが、本件開発許可処分に当たつては、同年七月一一日現地調査を行い、現地の状況、既往の気象条件等から予想される土砂流出等災害の発生するおそれのないよう訴外会社の防災措置の計画を充分に検討し、その他所要の書類も検討のうえ適法に許可したものであつて、現在まで土砂流出による災害もなく、森林法一〇条の二の規定に適合するものである。それゆえ、本件開発許可処分は、違法とされるような瑕疵はなく、適法である。

なお、四日市林業事務所が昭和五八年八月四日に訴外会社の林地開発行為の完了確認調査を行つた際、許可区域内において土砂採取後の保全措置が基準に適合しないこと及び許可区域外においても約四ヘクタールの土砂採取が行なわれていたことを確認したので、前者については、同年八月五日付で土砂採取後の保全措置に対する手直しの指示を行い、昭和五九年三月七日訴外会社による同作業は完了したし、後者については、昭和五八年八月二六日付で訴外会社に対して作業中止命令を行い、同年一〇月一三日付で復旧措置を講ずるよう訴外会社に指示し、昭和五九年五月二四日訴外会社による同作業は完了した。

(二) 本件作業等許可処分について

訴外会社は、当初砂防指定地に指定されていない員弁郡東員町地内及び桑名市嘉例川周辺において埋立用土砂の採取を行つていたが、その後、事業の進展に伴つて採取区域を拡大し、砂防指定地である桑名郡多度町力尾地内において無許可で土砂採取を行うに至つた。これを確認した三重県北勢県民局桑名土木事務所(以下、桑名土木事務所という)は訴外会社に対し、昭和五四年一二月二一日付で砂防指定地内での土砂採取行為を中止するよう作業中止命令書を発し、訴外会社からはこの行為につき始末書を徴するとともに、改めて訴外会社から昭和五五年一月二四日付の砂防指定地内作業等許可申請書を提出させ、所定の手続に従つて審査し、治水上砂防の観点から支障がないと認められたため、被告知事は同年五月一五日付で本件作業等許可処分をしたものであつて、本件作業等許可処分は適法であつて、原告主張の如き瑕疵はない。

第三証拠 <略>

理由

一  原告は本件各許可処分の無効確認を求めるが、行政処分の無効確認の訴えの原告適格に関しては、行政事件訴訟法三六条に「無効等確認の訴えは、当該処分又は裁決に続く処分により損害を受けるおそれのある者その他当該処分又は裁決の無効等の確認を求めるにつき法律上の利益を有する者で、当該処分若しくは裁決の存否又はその効力の有無を前提とする現在の法律関係に関する訴えによつて目的を達することができないものに限り、提起することができる。」と明定されているから、同条に定める要件を備えていない者は原告となり得る適格を有しないことは明らかである。そこで、これを本件各訴えについてみると、弁論の全趣旨によれば、原告が本件各許可処分に続く処分により損害を受けるおそれのある者に該当しないことは明らかであると認められるから、原告が本件各許可処分の無効等の確認を求めるにつき法律上の利益を有する者に該当するか否かについて以下検討する。

二  本件開発許可処分無効確認の訴えについてみるに、森林法は地域森林計画の対象となつている民有林において開発行為をしようとする者は都道府県知事の許可を受けなければならない旨(同法一〇条の二)、その違反者に対しては都道府県知事の監督処分(同法一〇条の三)及び罰則による制裁(同法二〇六条一号)が課される旨を規定しているが、この開発行為許可制度は、同法一〇条の二第二項及び第三項の規定に照して考えると同法の目的とする森林の保続培養及び森林生産力の増進に留意しつつ、当該開発行為の対象となる森林が現に有している公益的機能、すなわち、土地に関する災害防止の機能、水源のかん養の機能及び環境の保全の機能を維持増進することを目的としており、個々人の個別的利益を超えた抽象的・一般的な公益保護を目的とした制度と考えられること、他方、同法は第三章第一節で保安林の制度を定めているが、この場合は、保安林の指定に「直接の利害関係を有する者」は保安林の指定又は指定解除を農林水産大臣に申請することができる旨(同法二七条一項)及び右の者が意見書を提出して農林水産大臣に対し異議を申出ることができる旨(同法三二条)規定し、公益と並んで個々人の個別的利益をも保護していると解される(最高裁昭和五二年(行ツ)第五六号同五七年九月九日第一小法廷判決・民集三六巻九号一六七九頁参照)のに対し、開発行為許可制度においてはそのような個別的利益保護の規定が置かれていないことを併せ考えると、開発行為許可制度は個々人の個別的利益を保護する趣旨のものではないと解すべきであるから、仮に本件開発行為許可処分が法律の規定に違反し、法の保護する公益を違法に侵害するものであつても、そこに包含される不特定多数者の個別的利益の侵害は単なる法の反射的利益の侵害にとどまり、かかる侵害を受けたに過ぎない者は、右処分の無効確認を求めるについて行政事件訴訟法三六条に定める法律上の利益を有する者には該当しないと解すべきである。すると、本件開発許可処分の名宛人以外の第三者である原告は本件開発許可処分の無効確認の訴えにつき法律上の利益を有しないというほかない。

次に、本件作業等許可処分の無効確認の訴えについてみるに、砂防法は、砂防指定地において地方行政庁が治水上砂防のために一定の行為を禁止若しくは制限することができる旨を定め(同法四条一項)、同法施行規程三条は右禁止又は制限行為については都道府県の規則を以つて定める旨規定しており、これに基づいて三重県知事が定めた三重県砂防指定地管理規則は土地の掘さく、盛土、切土、開墾その他土地の原状を変更する行為、土石(砂れきを含む)の採取、鉱物の採掘又はこれらのたい積若しくは投棄等について三重県知事の許可を受けなければならない旨(同規則四条)、違反者に対しては監督処分(同法二九条、三〇条)及び罰則による制裁(同法四一条、同規則二〇条)が課せられる旨規定している。右各法規の定めるところを総合して考えると、この砂防指定地内での一定行為の禁止・制限は水災防止のための平常的措置の一環として設けられているものであり、抽象的・一般的な公益を保護する趣旨のものであつて右禁止・制限によつて個人が個別的利益を得ることがあつてもそれは右の一般的公益の保護を通じての附随的・反射的な享受にすぎないと解すべきである。したがつて、本件作業等許可処分の名宛人でない原告は、本件作業等許可処分について行政事件訴訟法三六条に定める法律上の利益を有しないといわなければならない。

三  以上によれば、原告は本件各許可処分の無効確認を求めるについていずれも原告適格がなく、本件訴えはいずれも不適法であるから、これを却下し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 庵前重和 下澤悦夫 鬼頭清貴)

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